昨日の大騒ぎのあと、僕はある男性と話した。カメレオンくんと言う。
彼は心理学を勉強していると言っていた。なんとなく信用できない感じのする僕と同い年の人だったが、あるときワニさんがこんな事を言っていた。
まだワニさんが居たころ彼はマッサージと称して、ワニさんの上に馬乗りになっていたのだけれど、誰もいなくなった時に「最近、彼とヤッてる?」と言ってきたらしい。
加えて、「昔君のような女と付き合っていて、それがトラウマとして残っているから、こんど治療としてデートしませんか?」とも。この文章でこういう生々しいことを書くのもどうかとも思ったけど、時にはこんなダークな噂ばなしも悪くない。
僕は元ヤン風のワニさんのことは信用していたから、彼女が嘘をついているようにも思えなかったし、嘘をつく理由も思い当たらなかった。
そしておぞましさと共にカメレオンくんのなかの論理もわかる気がした。
たぶん、いくつかの屈折がここにはある。一つは精神疾患であり、もう一つは心理学。どちらも心をめぐる概念だ。心理学を勉強すればたぶんほとんどの人間が一度は全能感を味わう。人の心の脆さを理解するからだ。けれどもう少し深く入り込むと、そう単純でもないと知って安心する。
けれど、僕の見たところ彼は初学者だった。初学者にありがちな、概念の噛み砕けなさと、それを運用したがる無邪気さが明らかに目についた。
人は心について学ぶうちに、それそのものによって逆に深い影響を受けてしまう。僕がそれを味わったのは大学時代だったから、教授に指摘されて我に戻ったのを今でも恥ずかしく思い出す。
しかし彼は不幸にも、病の最中に病に関する勉強を始めてしまった。これは泥沼化する。たぶん心に関わらず、例えば未知のウイルスに身体を侵されながら、その抗体の研究をするのであれば生じないような問題が生じる。
それはフロイトとユングの関係のように、深く暗くおどろおどろしく、そして性的なものになるだろう。
そしてたぶん僕もこの性的な何かしらの暗示を強く受けている。それに関しては、心理検査がなにかを教えてれないかと期待している。
話が飛んだね。そう、大騒ぎのあと僕はカメレオンくんと話した。内心、軽蔑の感もあったけれどあくまでうわさ話だから鵜呑みにしないでいるんだ。そしたら新しく入ってきた患者さんがおかしくなる少し前に彼は心理学の本を貸して、それが悪かったのかもしれないと殊勝そうに語った。
なんとなく嫌なものを感じて、というのは彼が「そんなことないよ」と言ってほしそうだったのと、よりによって精神病棟で心理学の本を貸すというのは、僕だったらやらないことだ。だから僕は「そういうことがあるから、原則病棟内での患者間での物品の貸し借りはナシなんだよね」と少し嫌味に言ってしまった。
けれどこの感染の目の当たりにして僕は不気味なものを感じた。この病棟にいると、まるでデヴィット・リンチの映画でも見ているようになにが現実で、何が正常で何が異常かほんとうに判別できなくなってくるのだ。
これもここで目の当たりにした人間の脆弱性の一つだった。
前のポストで少し触れたけれど、僕がここで得たものの一つにこういう体感があるように思う。もちろんこれが僕の人生でどのように役に立つのかはわからないけれど、この体験は何度も生気を帯びて僕に影響を与え続けるだろう。
そして僕はその脆弱性の前で、たたずんでいる。
カメレオン君てきな人結構いるよね 笑
返信削除ほんとによくブログを読んでくれてありがとう…それに値するように努力します。
削除そうだね。こういうタイプの人は僕に似ているから、苦手だよ。
本気でマジック見破ろうと思ったら見破れる気がする!
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