「遠い」とはロマンの別名である。
手書きで書いたのは何年ぶりかわからないが、遠方の友に想いをはせるのは気持ちのよいものだ。
たしかにメールの方が圧倒的に便利だ。しかし伝わらないものもある。
僕の字はおぞましいほどに汚いのです。
自分で見てもいやになるのだから、それを送られた方はたまったものではないだろう。
線は真夏のマンホールでのたうちまわるミミズのように蛇行し、文字はバラバラ、おまけに間違えも多いから、ぐしゃぐしゃと消された文字多数、キザに万年筆なんかを使った日には、手の汗でにじみ、余計なシミをつける。
書き上げたら、二度と読みたくもない代物になっている。
それをそっと三つ折にして、ぴんと角の立った薄桃色の封筒にスルリと入れる。
すると、あたかも美しい文面がそこに隠されているように思われるのだ。
ポストに投函すると、カシャンと小気味のいい音が「確かに預かりましたよ」と教えてくれる。
数日するとLINEが届いた。
「お手紙ありがとう。」